皆さんはターミナルケア(終末期医療)という言葉を聞いたことがありますでしょうか。
「終末期医療」や「ターミナルケア」と聞くと、どこか遠い話のように感じるかもしれません。
このコラムでは、そんなターミナルケアの基本から、その実施方法、そして現在の状況について解説します。
近い将来、自分や身内がターミナルケアを受けることになるかもしれません。
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ターミナルケア(終末期医療)とは

ターミナルケアとは、延命を目的とする治療を行わず、患者の身体的・精神的な苦痛を和らげ、生活の質(QOL)をできる限り向上させながら、残された時間を穏やかに過ごせることを目的とした医療です。
老衰や病気が進行し、どんな医療も効果が期待できなくなった状況で余命が数ヶ月以内と予測される段階を「終末期」と呼び、この時期に提供される医療・看護を「終末期医療」といいます。
終末期医療の対象となるのは、医師から余命が数ヶ月と診断された患者です。
かつてはがんや認知症、エイズの患者が主な対象でしたが、最近では病気の種類に関わらず行われています。
ただし、患者本人が希望しない場合はケアが行われないこともあります。
また、認知症などで患者自身の意思を確認するのが難しい場合は、ケアを行うかどうかを家族が判断することになります。

終末期(ターミナル期)の定義
全日本病院協会の「終末期医療に関するガイドライン」では、終末期は以下のように定義されています。
(引用)
「終末期」とは、以下の三つの条件を満たす場合を言います。
1.複数の医師が客観的な情報を基に、治療により病気の回復が期待できないと判断すること
2.患者が意識や判断力を失った場合を除き、患者・家族・医師・看護師等の関係
者が納得すること
3.患者・家族・医師・看護師等の関係者が死を予測し対応を考えること
上記のガイドラインでは、終末期を医師個々の判断ではなく、客観的かつ明確な根拠に基づいて患者が「終末期である」と認定される状態と定義しています。
ターミナルケアと緩和ケアとの違い
ターミナルケアと緩和ケアは、それぞれ始まる時期や方法、目的が異なります。
ターミナルケア
ターミナルケアは、余命が限られていると判断された段階で始まり、患者が亡くなるまでの期間をサポートするケアです。
目的は、治療よりも残された時間を心穏やかに過ごせるよう手助けすることです。
医師や看護師、家族が一丸となって、患者の生活を支えながら、苦痛や不安を軽減することを重視します。
緩和ケア
緩和ケアとは、治療の開始と同時に行われるケアを指します。
目的は、病気による苦痛や不安を和らげ、患者の生活の質(QOL)を高めることにあります。
治療と同時に行うことで、患者の身体的・精神的な症状を軽減しつつ、病気の進行状況に対応します。
ターミナルケアも、緩和ケアの一部と見なすことができますが、緩和ケアが治療と共に進められるのに対し、ターミナルケアは治療が終了した後、患者の残りの生活を支えることに焦点を当てています。
ターミナルケア(終末期医療)の内容
ターミナルケアでは、どのようなケアが行われているのか詳しく見ていきましょう。
ターミナルケアには主に3つのケアが含まれます。
身体的ケア
身体的ケアとは、病気による痛みを和らげることを目的とするケアです。
痛みや不快感を取り除くための投薬や、通常の介護と同様に食事や入浴、排泄の介助を行います。
もし口から食べることができなくなった場合には、以下のような方法で栄養を補給します。
・経管栄養:チューブにより栄養を体内に直接入れる
・胃ろう:胃に穴をあけ食べ物を注入する
・中心静脈栄養:高濃度の栄養液を点滴する
自力で動けなくなった場合には、床ずれを防ぐためのケアや、体を清潔に保つために体を拭く清拭を行います。
経管栄養や点滴を行うことは一般的ですが、これらの延命措置を実施するかどうか、どの方法で行うかについては、本人や家族の意向を確認した上で決定しなければなりません。
精神的ケア
精神的ケアとは、患者が安心して最期を迎えられるように支援するケアです。
具体的には、孤独や寂しさを感じないように、自宅に近い環境を整えて安心感を与えたり、家族や友人と一緒に過ごす時間を大切にしたりします。
また、趣味の時間を確保したり、ベッド周りをリラックスできる雰囲気に整えたりすることも、精神的ケアの一部です。
死が近づくと、死に対する不安や恐怖、さらに遺される家族への心配から、精神状態が不安定になることがよくあるため、こうした患者の感情に寄り添い、心穏やかに過ごせるようにケアします。
患者によっては、ケアを受けることで申し訳ないという気持ちを抱き、逆に負担に感じることもあります。
こうした場合は、患者の性格をよく理解している家族が、過度に気を遣わせないように、適切な距離感で接するよう心がける必要があります。
社会的ケア
社会的ケアは、経済的な負担を軽減するための支援であり、主に家族やソーシャルワーカーと協力して行われます。
特に終末期医療においては、金銭的な問題が避けられません。
入院や介護により患者や家族に経済的な負担が生じますが、社会的ケアでは、医療ソーシャルワーカーが介入し、医療費の軽減や支援制度に関する情報を提供し、患者が経済的な不安から精神的に追い詰められないようサポートします。
また、遺産相続や遺品整理の手助け、家族のストレス軽減のための相談も行います。
特に、家計を支える人は「家族に迷惑をかけているのではないか」と感じやすいため、家族がしっかりと話し合い、本人の気持ちを理解してあげることで、その精神的な苦痛を和らげることが重要です。
また、終末期には社会的な役割や立場を失うことで、「自分の存在に意味がない」といったネガティブな考えに陥りやすくなります。
こうした状況を防ぐためにも、家族が積極的に本人の話を聞き、その心情に寄り添うことが求められます。
ターミナルケア(終末期医療)を受けられるところ

ターミナルケア(終末期医療)は、介護施設、病院、自宅で受けられます。
それぞれのメリットやデメリット、費用面について詳しく説明します。
介護施設
介護施設で終末期医療を受ける場合、ケアマネジャーや介護スタッフ、施設内の医師や看護師が24時間体制でサポートしてくれます。
介護施設では、特に褥瘡(※)ケアや日常生活の支援が充実しており、病院以上の手厚いケアが受けられることが特徴です。
(※褥瘡は「床ずれ」と呼ばれる症状で、皮膚の圧迫により血流が低下することで起こります。)
そのため、患者は必要なケアを受けながら、最小限のストレスで生活を送ることができます。
<メリット>
・日常生活の支援から褥瘡ケアといった細かなケアまでしっかり行ってくれるため、安心して過ごせる
・着替えや排せつ、移動などのサポートが充実しているため、自宅での介護よりもストレスが少ないと感じる人が多い
・家族の負担が軽減されるため、家族自身のストレスも少なくなる
・介護スタッフや他の利用者と交流する機会が持てる
<デメリット>
・自宅で過ごすよりもリラックスするのは難しい
・家族との面会時間が制限されているため、家族との時間が少なくなる
・家族には経済的な負担がある
・容体の急変時に、家族がすぐそばにいられないため、不安が募る
<費用>
施設での終末期医療の費用は、施設の種類(特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、介護老人保健施設など)、部屋のタイプ、提供されるサービス内容によって異なります。
例えば、特別養護老人ホームなどの介護保険が適用される施設では、通常、1〜3割の自己負担で利用することができます。

病院
病院で終末期医療を受けると、容体が急変した場合でも迅速に対応してもらえるため、安心して任せることができます。
また、病院でのケアは自宅で行うよりも家族の負担が軽くなるため、家族の精神的な負担を減らせることはメリットです。
<メリット>
- 急変時に素早く医療処置を受けられる
- 大部屋の場合、孤独を感じにくくなる
- 家族の負担が軽減される
- 専門家が常駐しているため、患者が相談しやすい
<デメリット>
- 経済的な負担が増える
- 面会時間が決まっているため自由に会うことができない
- 自宅に比べて落ち着かない
<費用>
病院で最期を迎える際の費用は、通常の入院と同様で、医療費(保険適用)、食事代、雑費(病衣やおむつ代など)、差額ベッド代です。
医療費は、後期高齢者医療制度や高額療養費制度の対象で、年齢や所得に応じて自己負担の上限が設定されています。
高額療養費制度の利用に際し、高額療養費支給申請書を提出する必要があります。
自宅
自宅は、家族と一緒に最後の時間を共有できる理想的な環境です。
終末期が近づいていることを分かっている場合、介護施設や病院ではなく、自宅を選ぶ人が多くいます。
<メリット>
- 残された時間を大切な家族と過ごせる
- リラックスして過ごせる
- 訪問診療を利用すれば、自宅でも酸素吸入や点滴などの処置が可能である
- 家族の通院の負担がなく、経済的な不安も少ない
<デメリット>
- 家族の肉体的・精神的負担が大きい。
- 患者の容体が急変した場合、すぐに医師の診察が受けられない
<費用>
自宅でターミナルケアを行う場合、医師の往診は1回2〜3万円、訪問看護は1回1万円程度で、健康保険や高額療養費の対象となります。
費用負担の上限は年齢や病状で異なり、入院時より低い場合が多いです。
訪問介護は介護保険が適用され、1〜3割負担で利用できます。
その他、ベッドや車いすのレンタル費用や、バリアフリー化のリフォーム費用が必要になることもあります。
ターミナルケア(終末期医療)の現状
内閣府は平成24年に「高齢者の健康に関する意識調査」を実施し、最期を迎えたい場所についても調査しました。その結果は以下の通りです。
- 自宅を希望する人:54.6%(男性 62.4%、女性 48.2%)
- 病院などの医療施設を希望する人:27.7%(男性23・0%、女性31.6%)
- 特別養護老人ホームなどの福祉施設を希望する人: 4.5%
- 高齢者向けのケア付き住宅を希望する人: 4.1%
性別をみると、自宅を希望する人は女性よりも男性の割合が多く、医療施設は女性で希望する割合が高くなっています。
自宅で看取られたいという希望を持つ人は、全体の50%以上ですが、現実には70%以上の人が病院で最期を迎えています。
この希望と現実の乖離が、ターミナルケアの主要な課題といえるでしょう。
この課題の背景には、家族に迷惑をかけたくない気持ちや、同居や近居が難しい状況が考えられます。
こうした現状の課題に対する改善策として、国は医療・介護政策を「施設から在宅へ」という方向で進めています。
この中には、ターミナルケアのガイドライン見直しや、全国の市区町村自治体に対し「地域包括ケアシステム」の構築を推進する取り組みなどがあります。
地域包括ケアシステムとは
地域包括ケアシステムは、要介護の高齢者が、長年暮らしてきた地域で自分らしい生活を続けられるように、地域ごとに支援やサービスを提供する仕組みです。
少子高齢化が進む中、2025年には団塊世代が75歳以上となり、医療や介護の需要が一層増えると考えられています。
しかし、高齢者が増えるのに対して、病院や施設、介護職員の数が不足する見通しです。
そのため、厚生労働省は2025年を目標に、医療・介護、生活支援、福祉サービスを一体的に提供できる地域包括ケアシステムの構築を進めています。
高齢化の進み具合には都市部と町村部で違いがあり、それぞれの地域で必要なサービスや課題も異なるため、各地域が中心となって、その地域の特性に合ったケアシステムを作り上げることが大切です。
<地域包括ケアシステムの取り組み事例>
全国の中でも先駆的な地域包括ケアシステムを構築している東京都世田谷区の事例をご紹介します。
世田谷区は、地域資源とネットワークを活かし、日常生活圏を基盤として、区全体で地域包括ケアシステムを整備しています。
高齢者の実態把握調査を独自に行い、住民の意見を取り入れて、健康づくりや介護予防の重要性を強調しました。
「住み慣れた地域で安心して暮らし続ける」ことを基本理念に、医療と介護、予防、住まい、生活支援の5つをバランスよく組み合わせた仕組みを推進しています。
約70の団体が連携し、高齢者の社会参加を促しながら、切れ目のない支援システムを構築しています。
終末期の患者に家族ができるケア

終末期において大切なのは、患者さんの気持ちに寄り添うことです。
ただそばにいて見守る時間も必要です。
もし話を聞いてほしそうな様子であれば、共感しながら話を聞いてあげてください。
終末期の患者さんは、病気の進行により全身の力が衰え、これまでできていた運動や家事が次第に難しくなり、介護が必要になります。
こうした変化を実感すると、患者さんの辛さが増すこともあります。
家族が近くで介護する際には、患者さんができることを尊重し、支えになることが大切です。
普段の様子を観察しながら、できないことをさりげなくサポートしてあげましょう。
できないことが徐々に増えていきますが、事前にその変化について理解していれば、家族も心の準備ができます。
少しずつ準備を
この記事ではターミナルケアについて解説しました。
終末期医療やターミナルケアは、ただの医療行為ではありません。
身体的な苦痛を和らげ、精神的な支えを提供するなど、患者さんとその家族にとって大変重要なものとなっています。
また、自宅、病院、介護施設での選択肢がある中で、どこでどのように過ごすかは、家族や患者さんの希望や状況によって異なります。
いざという時のために少しずつ情報収集などをしてみるのはいかがでしょうか。
監修者

谷口 順彦
特定非営利活動法人日本統合医学協会理事
総合学園JOTアカデミー理事長
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