年齢を重ねた先に、どんな毎日を送りたいでしょうか。
仕事を続けたい人もいれば、趣味や家族との時間を大切にしたい人もいるはずです。
暮らし方は違っても、「今日、自分がしたいことがある」「自分の居場所がある」という感覚には、共通する大切さがあるのではないでしょうか。
2023年10月11日、チューリップテレビ(TBS NEWS DIG)は、富山県高岡市のマクドナルドで働く当時95歳の薮田義光さんを紹介しました。
薮田さんは週4日、深夜から早朝にかけて店内の清掃を担当し、仕事を楽しんでいると語っています。
注目したいのは、何歳まで働けるかという記録ではありません。
自分に合う役割を持ち、人と関わりながら過ごすことには、どのような意味があるのでしょうか。
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95歳の仕事に映る、役割を持つ喜び

「好き」が日々の役目になっている
薮田さんは長年、土木工事や清掃などの仕事に携わり、90歳でマクドナルドのクルーになったと報じられています。
取材では、清掃が好きで、体を動かすことも楽しいと話しました。
清掃は、終わった結果が比較的わかりやすい作業です。
テーブルが整い、客席が次の利用者を迎えられる状態になる。
自分の手で取り組んだことが、その場所を利用する人の役に立つという面があります。
もちろん、薮田さんが仕事のどの部分に最も満足を感じているかは、本人の言葉以上に推測できません。
ただ、記事からは「自分の好きな作業を、誰かが利用する場所で担っている」という事実が見えてきます。
生きがいというと、立派な目標や特別な才能を思い浮かべがちです。
しかし、日々繰り返す小さな行動にも、本人にとっての意味が宿ることがあります。
長く続けることと、よく過ごすことは別
薮田さんは取材当時、100歳まで働きたいという希望も語っています。
その目標は本人のものであり、誰もが同じ道を目指す必要はありません。
たとえば、同じ仕事でも、ある時期にはやりがいとなり、別の時期には負担が大きくなることがあります。
体調、家庭環境、経済状況によって、続けたいことや続けられることは変化するものです。
健康長寿を考える際に大切なのは、過去の自分と同じように活動し続けることよりも、変化した自分に合う関わり方を選べることではないでしょうか。
社会との接点は、一人の力だけでは生まれない

仲間がいる職場という「環境」
元記事には、同じ店舗で働く当時79歳の野竹惠子さんも登場します。
二人は互いに励まし合っていると紹介されました。
薮田さん自身も、若い人と一緒に働くことについて前向きに語っています。
ここには、仕事の内容に加え、誰かと接する機会があるという側面があります。
挨拶を交わす、役割を分担する、相手の工夫を知る。
こうした接点は、一人で過ごしているだけでは得られない経験につながります。
ただし、人とのつながりは、本人が積極的であれば必ず生まれるものではありません。
年齢だけで参加を制限しない仕組みや、互いを一人の仲間として迎える姿勢も必要です。
つまり「いつまでも活躍できるか」は、本人の意欲だけでなく、周囲に選べる場所があるかにも左右されます。
社会参加と生きがいには、どんな関係があるのか
内閣府の『令和8年版高齢社会白書』によると、65歳以上で直近1年間に何らかの社会活動に参加した人のうち、生きがいを感じていると答えた人は84.6%でした。
活動に参加しなかった人より23.0ポイント高い結果です。
これは、社会参加と生きがいに関連がみられることを示します。
ただし、活動すれば必ず生きがいが増えるという因果関係を証明したものではありません。もともと人との交流を楽しめる人ほど参加しやすいなど、別の要因も考えられます。
また、調査における社会活動と、薮田さんのような有給の仕事は同じ分類ではありません。それでも、家庭の外に自分なりの接点を持てることについて考える、一つの手掛かりにはなります。
健康長寿を「働けるかどうか」だけで測らない

WHOが示す、自分の望むことができる健康観
世界保健機関(WHO)は、健康的に年齢を重ねることを、年齢を重ねても本人にとって大切なことを行い、よりよく暮らせる力を育み、保つ過程として捉えています。
その力には、移動する、学ぶ、人と関係を築く、社会に貢献するといった側面が含まれます。
注目すべきなのは、病気がないことだけを条件としていない点です。
本人の心身の状態に加え、住まいや地域、人間関係、利用できるサービスなどの環境も関係します。
100歳以上の人を指すセンテナリアンの暮らしを考えるときも、元気に働いているかどうかだけでは、その人の生活の豊かさは測れません。
誰と過ごしたいか、何を楽しみたいか、どんな支援があれば希望をかなえやすいか。
問いは人によって異なります。
働かない選択も、尊重されるべき役割の一つ
深夜の清掃を週4日続ける薮田さんの働き方は、あくまでも本人の取材当時の一例です。
夜間勤務や長時間の活動が、ほかの人の健康にも適しているとは限りません。
睡眠や休養、持病への配慮を欠いてまで活動することを勧めるものでもありません。
仕事には経済的な必要性もあります。
働くことを本人の意欲だけで説明すれば、働かざるを得ない事情や、働きたくても機会がない現実が見えにくくなります。
家族を支えること、趣味を楽しむこと、地域で誰かと会うこと、必要な支援を受けながら穏やかに暮らすこと。
こうした日々も、働くことと同じように尊重されるべきでしょう。
センテナリアンを含め、長い人生を歩む一人ひとりに必要なのは、「現役でいなければならない」という期待より、状況に応じて過ごし方を変えられる余地なのだと思います。
小さな役割を見つけ、ときには日常を離れる

「今日できること」を暮らしの中で探す
自分に合う役割は、必ずしも新しい仕事を探さなければ見つからないものではありません。
たとえば、週に一度、友人に連絡して近況を聞く。
得意な料理を家族に教える。
地域の催しに無理のない範囲で参加する。
好きな本について誰かと話す。
どれも目立つ活動ではありませんが、人との接点や楽しみを持つきっかけにはなります。
ポイントは、「人の役に立つこと」を義務にしないことです。
世話をする側になる日もあれば、手助けしてもらう日もあります。
役割は固定された肩書ではなく、関係の中で変わっていくものです。
最初から大きな目標を決めなくても、「気になっていたことを一度やってみる」「続けたいと思えるか確かめる」くらいから始められます。
活動すること自体が負担になるなら、休むことを選んでかまいません。
リトリートは、自分の希望を見直す時間
毎日の予定に追われていると、今の暮らしが自分に合っているかを考える機会は少なくなりがちです。
そんなときは、普段の生活から少し離れ、自分の気持ちや過ごし方に目を向ける「リトリート」という時間の使い方もあります。
自然の中を散策したり、静かな場所で本を読んだり、日常と異なる環境でゆっくり過ごしたり。
特別な旅行である必要はなく、できる範囲で場所と時間を選べます。
リトリートは病気の治療ではありません。
立ち止まって、「続けたいこと」「手放してもよいこと」「誰とどんな時間を持ちたいか」を整理する機会として考えることができます。
薮田さんの姿から受け取りたいのは、95歳まで働くべきだという教訓ではなく、自分が納得できる日々を持つことへの問いです。
働く日も、休む日も、誰かと過ごす日も、一人で静かに過ごす日もあります。
その時々に合う役割を、自分で選び直せること。
そんな自由が、健康長寿を考えるうえで大切なのではないでしょうか。
紹介記事・出典
チューリップテレビ(2023年10月11日公開)
「俺は100歳まで働く!」全国約3000店舗のマクドナルド 95歳の最高齢クルー!週4日の深夜の清掃が “いきがい”
富山県高岡市のマクドナルドで働く薮田義光さんの仕事ぶりや、仕事への思いを紹介した記事です。
取材当時のご本人の言葉や職場の様子について、詳しくはこちらをご覧ください。
参考資料
- 内閣府『令和8年版高齢社会白書』第1章 第2節「学習・社会参加」(2026年) ― 高齢者の社会活動への参加状況と生きがいの感じ方の関連について参考。
- 世界保健機関(WHO)『Healthy ageing and functional ability』(2020年) ― 健康的な加齢の考え方、本人の能力と生活環境の関係について参考。
監修・執筆:特定非営利活動法人 日本統合医学協会
(学術顧問:岡田昌義医学博士)
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